油断してないのに、ご飯がつまった

 ぼけばあちゃんの世話で一番大切なのは、ご飯をつまらせずに食べさせることである。
 ばあちゃんは箸を上手に使える。スプーンはだめ。ご飯をスプーンにのせるのが難しいらしく、右手のスプーンに左手でご飯をのせて両手が必要だ。箸なら上手で、夏のデイサービスでは「今日はそうめん流しでした。まず、プラスチックの金魚を箸でつかむ練習です。次にそうめんを流すとばあちゃんは上手にすくって食べました」ほらね。
 ご飯がのどにつまるのが一番困る。気管に入り、肺に入って「誤嚥性肺炎」になるともっと困る。難しいのは「水」である。水を何の気もなくゴクッと飲んでつまるのだと気がついた。そこで水は食べ初めに飲んだら、食べ終わるまで飲ませない。ご飯とおかずを交互に一口ずつ食べるようにする。つまり私がお茶碗とお皿を渡して一口ずつ食べるのを見ている。これで10分で食べ終わる。もっとも毎日似たような野菜の煮物なので、柔らかい。
 朝のばあちゃんは頭が空っぽだ。水の飲み方を忘れている気がする。ご飯の噛みかたも忘れ、もぐもぐ、3回も噛んだらもう飲み込んでいる。ご飯を食べる、って本能じゃないんだよ。赤ちゃんのときに母親から習うのだ。
 また、ばあちゃんは入れ歯が合わなくなっても訴える術を知らないから、ゆるんだ入れ歯で食べている。もう歯医者に連れて行けないのだからしかたがない。前に自分で入れ歯をはずし、布団の下に隠したので、夜はばあちゃんがはずして水で洗ったあと、入れ歯ケースに入れて私が保管している。なくしたら噛めないのでご飯が食べられない。
 こうして気をつけていても、ご飯がつまった!なんでやのん?上を向いたら気管に入るから「下、向いて」と言って、一口ずつ。なのに、最後に水を渡したら、3口目につまった!もう、やってられない。
 流しで入れ歯をはずし、つまったものだけ吐き出して、トイレに行って、パジャマに着替えて「寝なさい」一件落着。幸い、もう吐いてはいない。7時前だ。これからあとは私の自由時間。
 ばあちゃんはしばらくじっとしていたが、今はベッドで「パンパン」手をたたいている。これは「一人でカラオケ」しているらしい。
 ばあちゃんは運動神経とリズム感が抜群だ。