りんご泥棒

 文化祭に行ったら、このごろときどき「ウサギにやる草を取りに」来るおじさんに出会った。「退職してから病気をしたので、ここに来た」と言う、ある施設の入所者だ。このごろは「利用者」と呼ぶ。
 おじさんは私が畑にいると「また来ました」と言ってやってきた。「奥さん、あの苺、捨てたの?」と訊くので「あれは親株と子株だから使わへんのよ。使うのは孫株で、ここに仮植してたよ。孫株を引いて定植したら、ここにひ孫株が残ったので、植えるならこれをどうぞ」と言うと「植木鉢に土を入れて準備ができたら、もらいに来ます」と言う。
 あれこれ、話していたら「うちの田舎ではりんごを植えている。夜中に盗みに来る人がいる」と言う。許せないな、そんなやつ。「盗るな!と言いたいから『作る人の身になってください』と立て札を出したら『食べられない人の身になってください』と書き直された」と言う。許せない!とんでもないやつだ。「食べられない人の身になって」あげることはできるが、盗んだあんたが、その食べられない人に配ったりしないだろう?どっかのルートで売りさばいて金にして自分が使うんだろう?
 モラルも何もあったもんじゃない。