「我が家のテレビ撮影裏話」

 「テレビに出る!」この初めての経験に、戸惑い、不安、迷い、緊張、そしてもしかしたら女優デビュー?なるかと、91歳の母と二人暮らしの我が家に春の嵐が吹きました。いよいよ取材と撮影が1月下旬より1週間の予定で始まりました。部屋の中に2台の定点ビデオカメラを設置し、母と私の日常を撮ることとなりました。
 最近の母は、引き出しの中から財布や日記帳などを取り出し「家に持って帰ります」と言っては、ポケットに入れ、それを取り出しては眺めたりを延々と繰り返すのです。また娘の私を自分の姉や友達と思い込み「家はどこ?ご両親は?」など質問攻めにします。こういう行動や言動が出たら、私がビデオカメラのスイッチを押すのですが、待っているとき(?)に限って母はおとなしくテレビを観続けていたりします。本来ならば喜んでいいことなのに、撮ることに集中していた私は焦りにも似た気持ちでソワソワしたものです。
 夜寝るときはカメラのスイッチを切っているとわかっていても何だか撮られているような気がしてハンカチをかぶせたりと、今思い返せば私自信ずいぶんおかしなことをしていました。母はカメラの存在も気にせず、いたってマイペースで、インタビューやテープの交換のために度々来られるテレビ局のお兄さん達を相手に、まるで息子を迎えるかのようにお茶をすすめたり、お気に入りのぬいぐるみを抱かせたりと、喜んでおりました。最終日には、皆さんと握手をして走り去るタクシーに手を振り別れを惜しんでおりました。しばらくの間は緊張感から開放され、気が抜けてしまい、まるで祭りの後のような気分でした。しかし母にあわせて姉や友達を演じる私の女優修行はまだまだ続きそうです。