ひとまわりしてくると

 送ってもらったとき「二個一」のばあちゃんの話をもう一度聞くと「ばあちゃんはその人のことをなんとなくわかっているみたいだけど、相手は、一回りしてくると、もう『初めて会った人』になるんですよ。だから、怒っていても、また忘れて一緒にいられる」
「一回り」ってわかる?ばあちゃんのステイは認知症対応型になっている。なにしろ、歴史が古いから「徘徊して困る人」のために、そとに出て行かないようにまわりの出入り口に鍵がかかる。そして、建物が回廊型になっている。廊下を歩いて行くと、勝手に回ってもとの場所に戻ってくるのだが、その見分けのつく人とつかない人がいるのだろう。
 友達はヘルパーさんだが「おじいちゃんが怒りだすと、私、部屋の外に出るの。そして、エプロンをはずし、髪型もちょっと変えてから、平気な顔で入って行くとじいちゃんは私だとわからず、『別人だ』と思って機嫌よくなってくれるの。老人ホームならではの技ね!」と言う。すご〜い!!でも、私はこの「鍵のかかる施設」だから安心してばあちゃんを預けられる。いまどき「身体拘束はいけない。鍵をかけてはいけない」と言われる時代だが、そういう施設は「徘徊のある人は預かりません。入所できません」と堂々と言う。冗談じゃない。要介護2だからって、楽なわけじゃない。要介護度が低くても徘徊する人を家でみているほうがよっぽどしんどい。本人は目的があって出て行くようなので、歩くのは速いし、見失うと命にかかわる。徘徊する人こそ預かってほしいのよ。だから「鍵がかかる」のはかまわない。脱走されるより、ずっとよい。
 ともあれ、ばあちゃんは「一回りして」さっきのばあちゃんに会ったとき、はたしてわかるのだろうか?