人材確保と「キャリア段位制度」  ハスカップ市民福祉情報より

2012年10月31日 09:10
 東日本大震災から立ち直るために計上された「復興予算」が、被災地とは直接関係のない事業に使われている問題がクローズアップされていますが、10月27日、産経新聞は「キャリア・アップも復興予算に」と報じました。
 「キャリア・アップ」は「実践キャリア・アップ戦略」のことで、「介護職員の資格」(5月16日更新)でも紹介しましたが、政府の「緊急雇用対策」にもとづく国家戦略プロジェクトのひとつです。
 「新たな成長分野」(介護のほか、保育、農林水産、環境・エネルギー)を対象に、“新しい職業能力評価”をすると説明されています(首相官邸「雇用戦略対話」第5回会合資料3より)。
 “新しい職業能力評価”は内閣府が準備している「キャリア段位制度(国家戦略・プロフェッショナル検定)」(以下、段位制度)のことで、介護分野では「知識」と「実践的スキル」のふたつの職業能力を7段階で評価し、レベル4以上を「介護プロフェッショナル」と名付けるとしています。
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“職業能力評価”で介護職員は増えるのか?
 被災地の介護保険サービスについては、「短期入所が開始できず 陸前高田に新設の福祉施設」(2012.10.26岩手日報)、「被災地の介護職不足 雇用誘導へ投資必要」(2012.10.09読売新聞)といった報道があいつぎ、深刻な状況が続いています。
 段位制度に「復興予算」が投入されて、少しでも被災地の介護現場で働く人が増えるなら許容範囲かとも思いますが、この制度はすでに働いている人の“職業能力”を評価するもので、働く人を新たに増やすしくみではありません。
 また、被災地に限らず、段位制度は「処遇や社会的評価の改善に結びつけていく」ことを目的にしています。しかし、その内容は、施設・事業所の職員のなかから「アセッサ―」(評価者)を選び、講習を受けてもらうとしています。
 「アセッサ―」を選抜するだけでも、すでに“職業能力”が問われている印象ですが、さらにその「アセッサ―」に 同じ職場の人たちが査定される内部評価システムに不安も覚えます。
介護職員の悩み、不満のトップは「低賃金」
 財団法人介護労働安定センターは毎年、「介護労働実態調査」をまとめていますが、「2011年度介護労働実態調査結果」(8月17日公表)では、介護職員の「悩み、不安、不満等」のトップは「仕事内容のわりに賃金が低い」で、「人手不足」、「休暇がとりにくい」、「身体的負担」が続きます(表1参照)。
 「現在の仕事の満足度」でも「賃金」への不満は、「人事評価・処遇のあり方」や「教育訓練・能力開発のあり方」をはるかに引き離して1位です(表2参照)。
 毎年度の「介護労働実態調査」に共通するのは、低賃金に悩みながらも、介護の仕事にやりがいを抱き、能力の向上を願い、できる限り働き続けたいという回答が多いことです。
 段位制度は、介護現場で働く人たちの仕事への自負や向上心に応えるために構想されたのかも知れません。しかし、キャリア・アップとは、低賃金と高い離職率を解消して初めて、効果が期待される施策ではないでしょうか。