「胃ろう」について

 桜井先生の話は「胃ろう」に移る。
 のどのところで食道と気管が交差している。ものを食べるとき、この交差点では自然に弁が開きいたり閉じたりして、食べた物は食道に落ちるようになっている。「嚥下(えんげ)」という。「ごっくん、のみこむ」ことだ。
 「認知症」になると、身体全体の機能が衰えていく。ものを飲み込むのが下手になる。交差点での交通整理をしている信号が壊れた状態になる。食道に落ちずに、気管に落ちると「誤嚥」になる。このときに、食べ物についている雑菌が肺に侵入し、誤嚥性肺炎になる。
 たびたび、誤嚥と肺炎をくりかえすと、命にかかわるから、お医者さんは「胃ろうにしましょう」とおっしゃるのだそうだ。胃ろうというのは、お腹に穴を開けて、管をさしこみ、食事の時間になると、その管にチューブをつないで、栄養物を入れる。
 私の父は、肺気腫で入院していて、さいごは人工呼吸器のお世話になり、胃にチューブを入れていた。しゃべれず、食べられず、かわいそうだった。その記憶があるので、聞いているとつらくなる話だった。胃が痛くなってきた。
 ここらで、明るい話に変えなくては! またも挙手すると「短くしてください」と言われてしまった。警戒されたか?「うちのばあちゃんは、元気でふくらんだ風船、角(つの)だらけのこんぺいとうです。それでも最後はこういうふうに胃ろうになるのですか?」と尋ねてみた。「それはわかりませんよ。畑でころっと、というふうになるかも知れません」「それは困ります。パトカーが来るではありませんか」と言うと「畑で死ねたら、本望でしょう」そうですね。